1. ストレスが病気を引き起こす条件
各種の精神の刺激は人間に対してもとても重要なものである。その刺激に対して人間は喜、怒、憂、思、悲、恐、驚などのさまざまな反応が起こる。それはごく普通な反応なので、体にはあまり悪い影響を与えない。そのような刺激がなくなると、逆に有害である。子供では、各種類の刺激を受けないと、脳と器官の発育が遅くなる。退職した老人が、いままでのような刺激を受ける機会が少なくなると、老衰しやすくなる。長い間ストレスに対して、人間はある程度の反応能力を持つようになった。その対応能力範囲のストレスに対しては、人間はうまく処理すれば何も起こらない。ある限度を超えると、人間は対応しきれない時、バランスが崩れて病気になる。つまり、人間の対応能力を超えたストレスこそ疾病の原因になる。強力なストレス、長期のストレス、突然のストレスなどが人間の対応能力を超えやすく、疾病の原因になるストレスとして考えられる。
一方、ストレスに対する人間の対応能力は生活条件や育て方によりさまざまである。より良い生活条件で育てたストレスに対しての対応能力が弱い人が、過剰な刺激はもちろんのこと、ごく普通の刺激に対しても対応しきれなくなり病気になる可能性が多い。「可愛い子には旅をさせよ」ということわざがあるが、実に、ストレスに対する対応能力を育てる方法の一つとして伝わっているのである。
以上より、強烈、長期、突然のストレスは、疾病になる条件である。一方、強烈、長期、突然のストレスでなくても、対応能力の弱い人は度々それに対応しきれない場合もある。その時もバランスが崩れて疾病になる可能性がある。
2. ストレスによる疾患の特徴
自然の気象条件(天気)の変化により、人間とのバランスが崩れて病気になる場合は、体表から侵入する場合が多い。ところが、ストレスによる疾患は、体内から起こるのが特徴である。各種の過剰なストレスがまず気の巡りに影響を与える。例えば、怒れば気が昇り、喜べば気が緩み、思えば気が結び、悲しめば気が消え、恐がれば気が下がり、驚けば気が散る。それからいろいろな変化が起こる。肝は疏泄の機能を持ち、気の巡りに対して調節する働きをするが、各種の過剰なストレスが肝の疏泄の機能を超えたら肝気鬱結(肝の疏泄不能状態)になる。そして肝の経絡循行部分(脇肋部、少腹部)に脹満感が出る。更に肝気鬱結では、脾胃の気の昇降に影響を与えて胃の降濁の機能が弱くなり、嘔吐、吐き気などの胃気逆上の症状が出る。脾の運化の機能が弱くなれば、食事後の食欲不振、上腹部脹満感と下痢などが出る。
気は血の帥であり、血の生成と循環には気の作用はとても重要であるから、気滞の場合ときどき血行にも影響を与えてお血になる。そうなると肝経の分布としての脇肋部と下腹部の刺痛が出る。
気は津液の代謝にも影響を与えて、気滞であれば津液の巡りが乱れて水が溜り痰飲になる。痰と気は集まれば梅核気(咽喉部の異物感で、含んでもとれない、吐いてもとれない状態)が出たりする。
つまり、ストレスによる疾病はまず気の巡りを撹乱して関連する臓腑としての肝、または脾胃に、さらに血行と津液の循行が乱れるなどをもたらす。
3. ストレスによる疾患の治療方針
気滞はストレスによる疾患のポイントなので、その治療も気の巡りの調整に着眼しなければならない。肝は疏泄の機能があり気の巡りを調整する機能を持つから、肝の疏泄能力を回復するのが治療のポイントである。または脾胃の気の昇降と血・津液の循行を調整する方法を配合しなくてはならない。つまり、疏肝解鬱法のもとで胃気上逆を伴えば降胃気法を加え、脾虚であれば脾健法を加え、お血を伴えば活血法を加え、痰飲を伴えば化痰法を加えるのが普通である。 |